その八九


 






 






 

























  ねじれても 運ばれてゆく ぼくとあなたが   

雲ひとつない晴れ渡っている時に
聞く音と
雨の日に聞く音は
なんだかちがう感じがする。

乾いた空気の中では音が逃げてしまうみたいで
たちまち消えてゆくものをだまって
なすすべもなく見届けているのに

雨の日はひとつひとつの音が
すっとこっちにやってきて
皮膚をつたってしとしとと
沁み通る感じがするのだ。

誰かの生身の声だとは思えないぐらい
澄み切った声の女の人と
歌詞のことばをてのひらにつつんで
一滴もこぼさないようにしながら
だいじにだいじに歌う男の人の
ふたりの声が今、部屋に響いている。

そばにいて、夢のつづき
甘い闇、濡れてさまよう・・・

耳に残った声をこうして拾ってみるだけでも
いままで思っていたことがぜんぶ
そっちに吸い取られてしまうぐらい
こころがぜんぶもっていかれてしまう。

きっと作った時の彼女は、いまのわたしのように
うっとりなんかしていないのだ。
もっと俯瞰しているし冷静であるにちがいない。

なのにその隙間がいっぱいあるお陰で
わたしたちは、そこに思い入れを
注ぎ込むことができるんだなぁと。

誰にも触れられていなかった一曲が生まれ、
たくさんの人々の耳に届いてこころやからだに
響く度に、その一曲の重さみたいなものは
それぞれのファンの人たちの間で
どんどん重さを増やしていっている
ものなんだろうなぁと
ふとそんなこと思っていた。

哀しいところ
楽しいところ

未知の場所へたどりつこうとしている
ふたりの声に今日はやわらかく貫かれていました。

雨に濡れてしまったジーンズみたいに
そうとうにずぶぬれになってしまっているに
ちがいない、一曲でした。
       
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