その一〇八

 

 

 




 





 





















  ぼくはぼくと ちゃんとれんらく とれますように    
風邪がようやっと治ったというのに
なんかそのときの頭のもやもやだけが
咳も熱もでなくなっているからだの底の
ほうに残っている感じがする。

春だから、と春のせいにしてみたりする。

ちょっとずつ冬をぬいでいって
なんとか指の先ぐらいは
春に追いついてゆくっていうのが
ちょうどいい。
これからすこしずつ今日の青空のような
空に慣れてゆくことにします。

ふいに本棚から一冊のノートという名の
アーチストが綴った日記を手に取る。

たまたま99年の10月24日のところに
書いてあったことばと隣のページに
ペインティングされた絵に立ち止まる。

あたりまえにいきるって書いてあって。

絵はなんだか大きな企業の名前が
英語で記されている縦に並ぶ
数字の羅列の上を青いとっても青い絵の具が
それをぬりつぶすようにべったりと塗られている。

まるいけど中は穴の空いている青い
いびつなドーナツみたいなかたち。

落書きみたいなものもぜんぶあけすけに
できるってちょっとかっこいいと思った。

そのアーチストの個展を横浜に見に行った時も
誰かと電話していて無意識にそこらへんに
ある紙切れに鉛筆でぐるぐる字や記号を
でたらめに書いているみたいな時間のつまった
作品が紹介されていたのを思いだす。

そういうページをぺらぺらとめくって
いるだけでちょっとげんきがわいてくる。
だれかをげんきづけようと思って彼が
描いたんじゃなくじぶんをこぶさせようと
思って綴ったあれこれかもしれないけれど。
しずかなパワーをもらったような感じがする。

読み終えてぱたんと本を閉じた時思いました。
春だってなんていうかおそるおそる
うかがいながらわたしたちんところへやってきている
感じがしてきます。

おくゆかしいなぁと思いつつ
いっぽずつでも春が春のあいだは
よしなになりたいと思った
3月のはじまりの日でした。
       
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