その一一一

 

 

 






 





 






















 

おとといの ゆめのなかみは いまゆめのそと

きのう、きりんが沙漠を歩いている姿を
テレビで観ていた。
彼らは水をもとめてひたすらさまよう
のだけれど、なんていうかその歩き方に
じんときてしまった。

アナウンスではけっこう歩く速度は
速いといっていたのでもういちど
ちゃんと観てみたけど、わたしの目には
そんなに速く見えなくて。
それよりも彼らのたたずまいはちょっと
なみだがでそうになるぐらいうつくしかった。

朝になる前の霧深い場所まで彼ら親子は
生きるために互い違いに並んで歩いてゆく。

乾いた過酷な現実。
雨の降らない沙漠で骨だけになった
仲間の姿が画面に映し出される。

キリンにとっての死活問題だというのに
なんていうか
彼らは悠然と歩いてゆく。

そしてやっとみつけた背の高い樹木の葉先に
滴っているひとしずくを
たいせつそうに長い舌でうけとめていた。

あるシーンでは、唯一の水飲み場に先客がいると
わかるとたたかうそぶりもみせずに
そのオアシスを
さらさらとみんなで後にする。

そんなキリンを観ていたら血の気が薄くて、
ちょっと冷酷なぐらいいろんなことを
クールに享受してしまう人にもみえてくる。

だから、勝手な思いだけれど
メスを獲得するために交尾にのぞんだ
オスのジラフ模様の濃いキリンが
ちょっと、ちがう種類の動物であるみたいで、
あのオスはちょっとキャラをはきちがえてる
って感じたじぶんがおかしかった。

立っている時と座っている時の身長さは6メートルで
水を呑む時のあの脚のあしらい方も無防備で
眠る時脚を折り畳んで地面へと近づく感じも
そのいちいちが、胸にしみてきた。

でっかいのにしずかな生き物を観たという印象。

むかしからずっと好きな役者さんがいる。
いちども飽きたことがない理由はなんなんだろう
って思ったら、たぶんそれは彼の歩き方かもしれない
って思った。

どんな役の時でもわたしは彼の歩調を観てしまう。
とんでもないものを抱えている役をしている時も
追われている時も彼はとにかくゆっくりと
深呼吸している時みたいに歩く。
都会のアスファルトをホテルの廊下を、ギリシャの島々を。

そんな役者と沙漠のきりんを頭のなかで
ひとつにしながら
横降りの窓を打つ雨音をこんなに遠い場所で
聞いている不思議を思っていた。

       
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