その一二一

 

 




 






 


















  砂がにじんで じゃんけんの足 所在なくって

ひさしぶりになつかしい人から
電話をもらった。
すこし紗がかかったみたいな声の明るい第一声。
はじめての短歌集を上梓したとき、
電話インタビュウしてくださった編集者の
Mさん。

なんだかとってもなつかしい声だった。

彼がディレクションしたプラープダー・ユンという
タイの作家でもあるミュージシャンの
音楽ユニット「Buahima」のアルバムが
先日宅急便で届いた。

白く遠くに漂っている波飛沫。
夏のおわりに見る風景みたいなそんなジャケット。

ライナーノーツによると、プラープダーはいつも
小説などを発表する度に、<どうして本には
サウンドトラックがないのか?>という
問いを考え続けていたらしい。

そして始めるしかないと作ってしまったのが
彼の長篇小説「chit-tak!」のサウンドトラック版
というスタイルのCD。

いいなぁ、ないからほしいものをつくるっていう
行動力と、本のサントラっていう考え方。

会話にふと凪が訪れたり電車に乗って風景を
眺めている時に今サントラが欲しい!と
高校生ぐらいの時から思っていた私には
ぴったりすぎるぐらいの一枚だった。

時折タイの言葉のボーカルが入っていたりして
ふっと耳に新鮮な風が運ばれてくる。

聞き終わった後もあぁ未来の物語は
人懐っこくまだ続いているんだな
っていう余韻があって、今も耳の中で
ぐるぐると回ってます。

ちなみに「Buahima」ってタイの言葉で
「雪の蓮」っていう意味で、
中国の山のてっぺんにある伝説のハーブ
なんだそうです。

どんな病気も治せる魔法の薬らしく
この一枚のCDには不思議とそんな力があるような
そんな気がしてきました。

Mさんから電話をもらうときはすこしだけ私に
微妙な心境の変化があった時がなぜか多い。
もう何年か前のお正月過ぎたあたりの頃は
とっても心だけが弱っている時でした。
彼とどういうわけか坂口安吾についてちらっと
お話したりしているうちに、救いのなさの中にも
案外元気の種がかくれているのかもしれないと
気づかせてくれたことなつかしく思いだします。

声で何かを治せる魔法があるとしたら
声もたしかな「Buahima」なんだって。

夏の終わりにいいお薬もらってうれしくって
ありがとうな気持が耳を満たしてくれています。

そんな晴れたこころのまま秋を迎えたいなぁの
このごろでした。
       
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