その一三四

 

 





 






 




















 

森のどこかで ページがゆれる しおりそよいで 

ここはじぶんの部屋の本棚かと思うほど
乱雑に棚に並べられている
本屋さんがある。

引っ越して間もないくらいの頃は
いま棚の整理をしている途中なのねと
ひとり合点していたのだけれど
もう何年経ってもまだそのままで
ますますその状態はひどくなっていたりする。

棚の上のヘリに本は横に倒れて積み重ねてあるので
タイトルや著者のことは体を斜にしてみなくては
よくわからない。

でも私はこのデパートの3階にあるこの本屋さんが
なんか好きで、バーゲンの帰りなどに寄ってしまう。

おばさんとかおじさんとかみんな店員が
親族らしいのだけれど、
いつも誰かが売り上げとか注文の品が来ないとかで
怒っている。

店の人がいつも怒っている。
そんな場所には足を踏み入れたくないなと
思っていたけれど、大型の本屋さんにくらべると
なぜかしら、この頃居心地がよくなってしまった。

いやほんとは背中辺りがぜんぶ耳になって
しまったみたいに彼女達の声を聞いていると
落ち着きは悪いはずなのに、足がふらふらと
そこへ向かってしまうのだ。
そんな怒濤のスリルいっぱいの中で
集中して本棚を目で追ってると
思いがけなく古びた本に出会ったり
これまた思いがけず最新刊に出会ってうれしくなる。

新しい本がそこにあることがなんか不思議なので、
とりわけとくをしたみたいな気分。
いやよいやよはやっぱりすきなのねと
妙な空気をかもし出してる本屋さん。

ただ、あいうえお順だとか出版社順だとかに
こだわっていないというか無視している並び方なので
ほんとうに出会ってしまわない限りとっておきの
今日の一冊には出会えない。

店内には生々しい彼等の声がゆきかう。
その延長線上でみつけた本のページをめくっていると、
本屋さんと本の世界の中にあるなにか営みということが
ひとつにまざりあっているようでとても馴染みがいい。

そのデパートの他の店鋪は最近軒並み撤退という名で
姿を消して新しいショップへと変わりつつある。

むかしっからたぶんファミリーで経営している
そんなちいさくて、生活くさくて、いつも開店前みたいな
棚でしれっとしてる本屋さんだけど、
なくなってしまったら寂しい。
私はいつまでもそこが続いてくれると
いいなぁと切に願ってる。

いつもの本屋さんを少なめにして
売り上げに貢献しようとすこしずつ文庫本とか
大好きな「ku:nel」なんかをそこで買っている。

自分の部屋の本棚をふと見てみる。
葡萄のデザインのブックカバーをつけてくれる
あの古い本屋さんとまるで姉妹店のようなありさまで
まいにちなんとかしなきゃと思ってるこの頃です。

       
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