その一三九

 

 







 







 










 

暮れてゆく 宙を舞う指 にじって暮れる 

陽の暮れるのがすこし遅くなったある日。
玄関先の灯りのスイッチを押しにいくと
うんともすんともいわずに左端の隅っこが
明るくならない。

なんどかスイッチをかちかちやって
切れてることを確認する。

電球がある日とつぜん切れてるって知るって、
なんともない日常なのに
なんとなく日々にスラッシュが入ったみたいな
気分になる。

いちにちだけはいつもの場所に明かりを灯さずに
いつもは消している表札の上の
やけにまあるい電球を灯す。

そこはいつもつけているところより
数倍明るいので、ちょっといやなのだ。

表札をあかあかと照らし出していることが
なんかとってもすべてがあかるみに
でてしまっているみたいで、てれくさい。

だから夜そのあかりを消す時には
ほっとする。

闇にまぎれる玄関先はもうすべてが
なかったことのように安堵感に充ちている。

翌日あかるい時間に電球をとりかえる。
高い場所についているので椅子をもちだして。
さらに背伸びしながら電球を探る。

とりだした電球を掌で支えると
耳のそばでふってみる。
あのちりりっていうちいさな音を確認するために。

ちりりは切れている音だとわかっているのに
ちりりと聞こえるともの寂しいような
こわれものの電球だからとさっぱりしたような
ちょっとふくざつな気分になるのだいっつも。

そしてあたらしい電球をさしこむ。
部屋にもどってスイッチをかちっとして
明かりがつくと、あたらしい日々が生まれたみたいで、
ほんのすこしだけすがすがしい。

       
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