その一九四

 

 




 





 









 

ゆらめいた 尾びれのかたち ことばが溶ける

ガラス鉢の中だけが住処のこっぴいの水を換える。
糸のように細かった3匹のめだかは、ずいぶんと
ふくよかになって、元気に泳いでる。
彼等といっしょに育っている、水草。
この間は彼等の成長ぶりにも驚きながらも水草の
すこやかさに、圧倒された。

ガラス鉢の中は、緑色の草に覆われていて
まるでジャングルのように繁茂していたのだ。
こっぴーたちも、その合間をぬうように潜りたいらしい
のだけれど、縫いたいのに縫えないもどかしさで
ゆきつもどりつしていた。

青色のふたをあけて水の中でいきる水草をそろりと
取り出す時の手の甲や指にあたるぬるい感触が
ふしぎな気持ちをつれてくる。

水を寝床としているものたちのもつとくべつな
みどりの匂いが鼻をくすぐると、たちまち
かすかだけれど緊張してしまう。

水から取り出された水草は、水を携えていないと
なんら変哲もない、もじゃもじゃとした緑色の草だ。
でも、ひたひたの水の中で浮いていると、とてもゆらりと
ゆうがなふぜいにみえてくる。

バイオ液をふくんだ古い水と新しい水をまぜこぜにして
こっぴーをそこにもどすと、りせっとされた寝床ができあがる。

さっぱりと刈りそろえられた水草が、いつもみたいに
水中に浮いている。

ぬるい水・ジャングル・緑の匂い。
そんなイメージをひきずったまま水槽を見ていて
ふと、思いだした話があった。

その島にいる間汗かいても、肌や毛穴からみどりの匂いが
してくるんだよ。
雨に濡れた森や林につつまれているとしらずしらずのうちに、
からだぜんぶがみどりの生き物達と共にひたひたに浸かっている
感じになって、すっごい変な感じなんだ。
屋久島に旅したM氏が興奮しながらなかばうれしそうに、
みやげ話をしてくれたことがあった。

いつのまにか彼の話があたまのすみにすみついたままになって
こっぴーの水を着替えさせる度にそんな話のかけらが
どこかに残っていたんだなと思った。

屋久島でいきる生きたちと我が家のキッチンにいる水槽の中の
水草。ほんとはなんの関わりもないものないはずなのに
いっしゅんかれらたちのどこかとどこかがふれあったみたいで
ひとりゆるやかな気持ちになっていた。

       
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