その二〇四

 

 






 






 







 

ひとりでは とりあつかえない 春のぽっかり

駅前の本屋さんにゆく。
いきなり入り口あたりで、Bの文字が
たくさん目にとびこんでくる。

BBBって、黒くでたらめっぽい線で描かれた
シンプルな表紙。
立ってるBと寝ているBをちらっとみて
ちょっと斜にもたれかかってるBの本を
手に取ってみた。
B型の性格がつらつらと綴られているらしく
サブタイトルは<自分の説明書>って記されてた。

まさしくわたしはBなので、ちらっとページを
めくったのだけど、かすってるところばかりで
いきなり、飽きてしまってぱたんと閉じた。

あなたはあなたのことをいちばんしらないみたいなので、
いちばんよく知っている僕や私が君に教えてあげるよっていう
アプローチが、なんだか高校生ぐらいの恋愛状態にある男女の
口げんかの時みたいで、すこし笑ってしまう。

内容はちらっと見ただけなのでわからないけれど
サブタイトルには、すこしばかりなびいた。

<自分の説明書>ってあっても悪くないな、いまは
そんなにいらないけれど、クローゼットの奥の方あたりに
羊羹の入っていた、しっかりした空き箱なんかに
しまってあってもいいかもと、夢想した。

本屋に行くと、なぜだか緊張してしまう。
そして行く前にはあれもみようこれもみてみよう
よかったら買ってしまおうととわくわくしてるのに
行くと頭がまっしろになって、欲しかったものが
なにひとつなかったような気になってしまう。

人に会う前と後に似てるのかもしれない。
会う前はあんなことやこんなこと聞いてみたいって弾んでたのに
いざ会うと言いたいことの三分の一も言えないというか、
まったく予想だにしてなかった展開になってしまったり。

似ているのだどっちも。
本屋から帰宅して、書店のバリバリいう緑色の袋を開けながら
、 買い忘れたあの本のページをいちばんさいしょに開きたかったのに
ほんとうは。
ってぽっかりあいた空白を、次にそこに立ち寄る時の思いで
埋めてしまおうとするところなど。

どちらの行動もままならぬ思いで充たされているなって、思う時
もしかしたら<自分の説明書>を繙きたくなるのかもしれない。

でも、他人が教えてくれるわたしの説明書はなかなか、素直に聞けない。
なのに、奇跡の確率でじぶんのことをいい得てくれてると感じる
<自分の説明書>を綴ってくれるひとに出逢うと、
踵をかえしたくなったりする。

そして、闇の中でいちばん聞きたかった声を聞いた時の気持ちに
かられてこの次はあなたが書いた<あなたの説明書>を探しに
本屋にゆきたくなるのだ。

       
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