その二三一

 

 






 






 
















 

ゆかりなく ういのおくやま けふけふ越えて

こんなに寒くなったというのに
ハイビスカスが色鮮やかな花を咲かせていた。
いちにち花だから、次の日にはぽとりと土の上で
眠っているのだけれど。
夏よりも元気だ。

オレンジと朱色をまぜたようなそれは
朝起きると、おはようって感じで
そこにいる。

花びらのいちまいいちまいが水シボ模様のように
かすかな畝をもっていて、薔薇の花びらと
ちがって手触りがざらざらする。

このざらざらするところがいかにも生きてるって
感じがして、この頃いいなと思うようになった。
匂いはほとんどしないので、面白みがないねって
母とすこしだめだしをしていたのだけれど、
その花びらの風情はなかなか面白い感触なのだ。

こんなに眺めるようになったのは、押し花している
せいです。丸まっていた湾曲している部分を
なるべくフラットにするときに、まぁまじまじと
観察してしまうのだ。
近頃わたしはいろんな記録魔と化しているところが
あって、みたものたべたものの名残をついつい
集めてしまう。
どういう習性なんだろう、こわいなって思いつつ
とりあえず今年の初めからそんな気持ちになっている。

誰かの言葉を聞き逃さないようにと、切り抜きに
始まって、誰かと行った店のレシートや
つかわなかったコースターやキャンディ、
和菓子の包み紙など。
あとガムのきれいなパッケージなんかも
集めにかかっていて、いつかスクラップするための
ノートを、買いに行くのを楽しみにしている。

いろんな過去のものをたちまちゼロにしたがるくせに
こんなふうにたあいないものとるにたらないものを、
愛でてしまう癖は、なんだかわたしの中ではとても
衝動的だったような気がする。

この間、とある方に昔好きだった人との何か思い出の
品をもってきてくださいって云われて、
本棚を探していたら昔の彼がくれた宮本輝さんの
文庫本が3冊出て来た。
20年以上も前のものなので、色褪せているのだけれど
ページをめくって夢中で読み始めていたら、
その頃はわからなかった彼がなんで
この小説を好きだったのかその理由が分かった気がした。
ずっと往復書簡で綴られるその物語の中に彼が棲んで
いるような錯覚を感じていた。

真夜中ベッドに腰掛けたまま、冷えてゆく素足を
そのままにしていたことに気づく。
この本を引っ越しの時にも、古本行きの時にも
ずっと捨てられないでいたじぶんの選択に、
すこし苦いような甘いようなふしぎな感覚を味わっていた。
そして、いつも違うアングルで過ごしていたふたりが
ページの向こう側に浮かんだり消えたりしていた。

       
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