その二九六

 

 






 






 


















 























 

ぱらみつが 脈打つ調べ 地平にのびて

みたこともないおおきなものが
枯れ葉の寝床にごろんと転がって。
表皮はうすい黄色で覆われている。
ラグビーボールをすなおにしたような物体の
写真をみている。

これは果物です。と、そこに綴られている文章を
読んで、果物ですと言われたとたん、
大きなナイフで切り分けている果肉を想像する。
味はきっと南国系の、息苦しくなるような香りまで
漂って来る様で。

ジャックフルーツっていうんです。
ぱらみつとも言うらしい。
波羅蜜。
重さは25キロにもなるらしく、もうその姿は
住む場所をうっかりまちがえてしまったような
風情なのだ。
この名前の違和感だってなんともいえなくて
もやもやする。

ひとが異国へと行ってしまって、それでも
いつものイントネーションや言葉尻の癖さえ聞けば
距離なんて感じないんだろうけれど。
こんなふうに、味わったことのない果物の話なんかを
聞くとき、あぁちゃんとひとはこことはちがう
遠いどこかで、日々をくらしているんだなあと、
実感する。

実感の輪郭がいまだによくわからなくて、
おろおろするのはたぶん、こういう時なんだと思う。
いいかげん、まあたらしい現実になれなくてはと
思うのに、いちいちひっかかってしまってしょうがない。
ちゃんとするーできるひとが、まぶしい。

ブラジルの公園に落ちていたらしいこの果物。
いきなり対峙してしまったら、なにかの仕掛けかと
思って後ずさってしまいそう。
眼に映る風景にやがてなじんでゆく時間の積み重ねが
異国で暮らすっていういことなんだろうなと思う。

マンゴーですらなじめないというのに、時折
異国の市場に恋いこがれてしまうことがある。
眼にも鮮やかな果物や野菜を毎日目にしながら
くらしてゆきたいと。
その得体の知れない熱は、いちどピークに達すると、
底をみてしまうのか、凪のように落ち着く。

それにしても、ふしぎな名前。
インド原産のせいなのかなとも思うけれど。
ぱらみつ、ぱらみつ。
徹底的にあっちにいたはずの、ぱらみつが
いまこっちにやってくる、つかのまを
たじろぎながらつかまえたくて。

       
TOP