その三〇四

 

 






 






 

























 























 

夢の底 叩いたときの にじんだねいろ

ちいさなカフェで音がずんずんとかけめぐる。
かろやかなまるいかたちから、楽しそうに
はみだした音は、ちょくせつわたしのからだ
それもお腹あたりに届いてくる感じがする。

東急目黒線の、武蔵小山駅。
ここで昔からのお知り合いのよしこさんが、
所属しているバンドHAMASTERのライブをする
お知らせをもらって、いそいそと土曜日の夕方
ききにいった。

よしこさんの叩くパーカッションをはじめて聞いた。
ファルセットめくボーカルの男の人とギターやドラム、
ベースが重なりあう音と彼女の音が、そのあわいを
縫うように放たれる。

どれがどうなってどんなことになっているのかも
わからないけれど、客席に漂う空気が、まろくなって
ゆくのがわかる。

雰囲気のもうひとつの意味。
<地球をとりまく気体。大気。空気。>
大げさにいうともしかしたら、これかもしれないなって、
目覚めたような、気づいたような。

かもしだされたバンドの雰囲気って、なんだろうって
思っていたら、ひとりひとりのメンバーの人達が
からだのどこかしらから発しているらしい
空気のことじゃないかなって思った。

激しい曲の中にあっても、どこかしらゆらぎを
ふくんだようなやわらかい音の連なりが、カフェを
包んでいる。
他の場所で聞いた言葉を借りると、バンドって
ひとつの身体のような気がしてくる。

手も足も胸も首も背中もそして耳も、みんなが
機嫌よく機能しあっていると、そこからにじんでくる
音たちは、すこやかになってゆくのかもしれない。

あの時の音をいま思い出しながら書いていると
書いているそばから、ことばにきびしいよしこさんから
そのニュアンスってどういうこと? って
つっこまれそうかなと思いつつ。

ゆびさきから手のひらにかけてうねるように叩きだされた
弾んだ音色を聞いていると、そこにあるじぶんのからだが
なにかを携えていたとしたら、ぜんぶを宙に投げて
しまいたくなるような、あやうい魅力に満ちている。
人が原始にもどってゆくリズムってことばが、浮かんで、
そのリズムが打ち鳴らす彼方の音を想像してみたくなった。

       
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