その三一六

 

 




 
西




 




 

























 























 

いにしへの 十字架たちが 交わるところ

そのひとの、右のてのひらに置かれたクロスが
指先をするりとすべってしたたるように
左の甲でうけとめられる。

しずかにふくよかで、その十字架のアウトラインは
こまやかな銀でふちどられていた。
そこにほどこされた繊細なカービングに
目を奪われる。

すべてがハンドメイドで作られたカッツアニーガの
ジュエリーは、美術品のたたずまいをしていた。

月がしずかにほほえんで。
光の角度で、わずかに笑っているようにも
ただしずかに見守っているようにもみえる
月を象った黄金色のローマンバロックスタイルと
よばれるシリーズを、いつだったか芸術新潮の
ページをめくっていて出会ったふしぎな輝きが、
その日訪れた場所のショーケースの中でやさしく
きらめいていた。

初代アンジェロ・ジョルジョと
息子パオロのふたりが力をあわせて作った
パフュームボトル。
洋梨をちいさくちいさく象ったようなフォルム。
てっぺんにはたぶんラピスラズリ。
ボディにはおなじラピスとルビーが絶妙なバランスで
ちりばめられている。

ページの中からとびだしたみたいに
その姿を目の当たりにしたときは、リアルな奥行きを
感じて、ひさびさに鑑賞するという心の角度に
しっくりとなじむようなひとときだった。

ぜいたくな時間にふれる一瞬ってほんとうに
訪れることがあるんだなって、思いがけなさに感謝する。

むかしからアルチザンと呼ばれるひとびとに
興味があったのだけれど、カービングひとつとっても
そうだし、チェーンのリングのひとつひとつまでが
手作りされているので、こちらに伝わってくる職人の
息づかいがそこに垣間みられるような、趣きをしていた。

作っている人がそこにいるわけじゃないのに
ペンダントやブローチやリングそれぞれに
アルチザンの人達の呼吸がきこえてくるようだった。

       
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