その三四四

 

 

 






 





 






















 

さかむけが 小指に生えて 破れるひみつ

伊藤穣一さんがナビゲーターをされている
super presentation という番組を見ていた。

そこには40代半ばくらいの長身のアメリカ人男性が
登場して、自己紹介とアーティストとしての
活動内容を客席のみんなに披露してゆく。

彼の肩書きは、<秘密蒐集家>。
あやしくて眉唾だなって想いながらも
彼の話す言葉に、耳がどういうわけか惹かれて
いる感じがして聞き入ってしまう。

彼が他人の秘密を集めるきっかけはある日彼が、
ポストカードに自分の住所を書いた印刷物を見知らぬ
人に雑踏で配るところから始まっていた。
そのポストカードの裏をみてみると、
<あなたのひみつを教えてください>と書いてあって、
その言葉に反応したいろんな人からの
<ひみつ>が自宅に送られて来たらしい。

その数、いまや50万人。
なんなんだろうこの現象はって想う。
彼はアメリカで最も信頼される他人と呼ばれている
らしく。
この事実を知って、たじろぐというより
不可思議な世界の扉を開けてしまったような
落ち着かない気分。いやじゃないけれど全身で
受け入れる迄には程遠い感覚。

紹介されていた秘密は、くすっと笑ってしまうような
ものから、聞いた後にしーんとしてしまうものなど
様々だった。
スタバ店員が横柄な客にたいして、ノンカフェインの
珈琲をひそかに差し出すささやかな抵抗や婚約指輪を
彼女に内緒でポケットの中にしまってある話など
ほほえましい日常の中でひときわ印象的だったものが
あった。

ある男性の廻りの人たちは自分が9.11のあの日に
死んでしまったと想われているというもので。
その背景もなにもわからないけれど、見知らぬ人の
たったひとりのかけがえのない痛みを伴った、暮らしが
くっきりとどこかに刻まれてしまったような
気持ちになる。

彼はそのプレゼンテーションの最後に云っていた。
<秘密によって人情を感じたり知らない人とつながったり
も出来る>と。

秘密を打ち明けると、すっとなにかが軽くなる感じが
する。
あの軽くなる感じはたぶん、その秘密を打ち明けられた
誰かがその重みを引き受けてしまったせいなのかも
しれない。

ひみつは、つまびらかにされない場所でひっそりと
いきづく生き物なのかもしれない。
とりあつかい、きけんぶつの箱のなかにおさめておく
ことが、いちばんのかれらの居場所かもしれないなと
想っていたのに。
陽の光にさらされて、ひみつどうしが手を繋いでいる
光景をまのあたりにして、薄れてゆく過去の秘密を
手繰りよせては、やっぱり箱のなかへとしまいたく
なっていた秋の午後。

       
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