その三八〇

 

 

 






 







 






















 

ゆきのはら つもることばの 種をかくして

 浮かぶ。道がない。ひとりとひとり。
もののかたちにうかんでいたゆきが、そのものの輪郭をけしてゆくほど、隆起して。
 もしかしたら、ほのかにすきだったのにその白の静かな残酷さにうちのめされて、不安になってゆく。

 きもち。ゆめのようにきえてゆく。
こころ。よくわからなくて、わからないじょうたいをわかりたいという欲求もきえて。
 無垢であるということは、ひそかに暴力的であることを
思い知りながら。

 PR誌の切り抜きをみている。「呪い」と「祈り」という
タイトルの書評を読む。
 カリブ音楽のパンク、<メレンゲ>についての冒頭。
 メレンゲということばから、あの卵白の泡立てたときの
白い塊を思い出す。
 冬のイメージから、離れようとして読み始めたのにその語感からすぐにまた、しろの不穏さに出会ってしまう。
 その出会い頭の偶然にうろたえながら、ドミニカという国についての描写を、呼吸する。

 太陽の下のメレンゲのリズム。
 様々な国に支配され続けた歴史を背負ったドミニカ。
 故郷を捨ててどこかへ移住していても人々は、<いずれまた、
ドミニカに帰ってくる>と。
 その先の文章を読んでいた時、ふたたび、忘れようとしていた時間に引き戻された。
<いつだって、ドミニカが追いすがり、>
<足もとの土地があれよあれよとドミニカ化し、ゆらぎ、
ひびわれ、気がついたら、ぐじゅぐじゅにぬかるんで、とても立っていることができない>

 行ったことのない、海を纏った暑い国への自暴自棄な憧れにもにたきもちが、たちまちまたしろいせかいへと引きずり込まれる。
 こうやって、ひとはあったことのないひととの文章とも
さだめられたかのように、出会ってしまうものなのだと思う。
 思いにふたをしていても、そのこみあげる水圧に似た力で押し上げられて、あふれでたものと共におぼれそうにただよいながら、もとの気持ちから逃れられないものなのかもしれない。

 ゆきずりの。一瞬のえにしにとりかこまれながら、しろくまうもののなかに、なにもかもがちいさく浮かんで。
 しんしんと、ゆめもうつつも、つもってゆく。

       
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