その四二〇

 

 




 






 




















































 

雨粒が 土をうがって にじんだままで

 天気予報は教えてくれていたのに、忘れていたわけでもないけれど。降り出した雨はいつも突然で、傘の上を雨音がすべっておちてゆく。
 一瞬、つよい雨脚は、そのかさのひふのうえで、ふいに跳ね返りながらどこかでと着地して、名もない場所へ還ってゆく。

 水のあつまるばしょで、手と口をすすぎながら、このみずはいつもあたらしい匂いが、すると思う。
 ふと、みずはいつどこで年老いてゆくのだろうと思い、その輪郭を見ている。
 掌にすくうそのりんかくは、みつけたその刹那こぼれてゆく。

 傘の内側のほねが、すこしぎくしゃくしている。
 関節をつなぐようにしてひとつになっているささやかな連結部。そこがすこしゆるんでいる。
 
かさのほね。
 りんかくが、またたまくまに消えてしまう雨粒を寄せては返す波のように、受け止めているのは、ほそい骨組みに支えらえた緑葉が連なる傘のひふ。
 脈打つものを、そこにみつけられないものでも、みんなおしなべてからだをたずさえているものなのかもしれない。

<水の発見者はしらないが、魚でないのは確かだ>
 異国の人の言葉がゆれる。
 水のふたしかな輪郭の中で泳ぐ魚が、そこにいて。
 さかなは、かたちがあるようでないみずをまとって。
 遠いさかなたちが、そうやってとりとめもないほねのないものにゆだねながら、はてしもない時間を超えてゆらいでいる姿をふいにまぶたのずっと裏で描いていた。

 

       
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