その四五八

 

 






 








 
























































 

胸騒ぎ 見えない色の 声を聴かせて

 すこしの大海原と広い嵐の前のような空いっぱいに鳥がつばさをひろげている。
 そのつばさのなかには、晴れ渡った空に描かれた雲。
 ひさしぶりにルネ・マルグリットの絵を目にした。
 描かれているひとつひとつは、見慣れたはずの日常の風景のはずなのに、見知ったはずのアイテムがそこに集うと、とたんにそわそわするような落ち着かない気分になる。

 馬に乗る人も木立も、夜の街灯もはじめてみるわけではないのに。その佇みかたが、見るものを惑わせてしまうのかもしれない。

 そこに綴られていた文章に目が留まる。
「彼は、日常的に見慣れた事実を通して、現実的には
<見えないもの>を<見えるもの>にするために、絵画の中にさまざまな仕掛けを仕組みつづけた。」

 画家の視線には、この<見えないもの>がいつもどこかに<見えていて>それをまるでじぶんの想いを翻訳するように描いていたのかもしれないと夢想する。

 でもずっと見続けていると、その世界はまるで非日常がくるっと回転してまるでそれが日常だったかのように挑んでくる。
 そして、だれもが共通の意識として持ち得ている日常の
はしごが、ほんのすこし揺らいでゆくことを知りながら画家はそこに対峙する人とのコミュニケーションを図ることに生涯を捧げたのかなと思ってみたりする。

 緑の木立の中をゆく馬と騎乗する人の絵をよくみている
と、馬も人も木立の後ろっ側をゆくひとのように、身体が
分断されてみえる。その作品のタイトルは<白紙委任状>というもので。
 眠れない夜に、ページを開いていたらほんとうにますます眠れなくなりそうな感じだけれど。
 ページを閉じた時またはじまる日常にまみれながらも、
忘れた頃に頭の片隅にしまわれていたマルグリットのいくつかの作品が、昔からそこにあったかのように思い出されるような予感がしていた。

       
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