その四六四

 

 






 






 





























































 

一陣の 風がまたいだ あなたのペェジ

 すこしなにもかもほうりなげたい気分になっていたときに、ふと目に飛び込んできた『僕の違和感』というトルコの作家オルハン・パムクの本のタイトル。
その本の評者が星野智幸さんであったことも手伝って、新聞の記事をなんとなく切り抜く癖のあるわたしは、ぴりりとカッターナイフで切り取って手帳にはさんだ。
 
<1957年生まれのメヴルトが12歳で父とともにイスタンブルに出てきてから、2012年の現在に至るまでの人生を描>いた作品らしい。
 彼の幸福な結婚生活が、はじまりのちいさなかんちがいによって<影を落とす>そのプロセスにも興味をいだいたのだけれど。それだけではなく。
彼が様々な困難を抱えながらも、
<自分を解放できるのは、寒い季節の夜の路地で、伝統飲料ボザを売り歩く時だ>という件を読んだときに、たぶんこの小説は好きかもしれないと、予感がした。
 たぶん人がなにかによって解放されるときをわたしはくまなく知りたいのだと思う。
 人が彷徨しているその様子に耳をかたむけているときそれはさながらまるでじぶんが、どこかの路地を彷徨している気分に陥っているみたいになる。
 <大都市での人生とは、その因習の束縛と解放の狭間で生きることだ>と書評の中にあったことばに立ち止まる。
 トルコと日本が置かれた状況はちがうはずなのに、書評の中にもあるようにこれは、もしかしたらわたしたちの物語かもしれないと、かすかな救いのような気持ちに駆られるのはなぜなんだろう。
 タイトルにもなっている<違和感>。
<頭の中の違和感、自分がその時にもその場所にもあっていないという感覚>という巻頭のワーズワースの言葉にじぶんの今のきもちを丸投げしたくなる気持ちが、ふいに呼び覚まされて。
異国の路地と日本のどこかの路地どこかでシンクロしてゆくようなそんな読後感を、その本が部屋に届く前にすでに夢想している。

       
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