その四七一

 

 






 







 






























































 

一枚の ポストイットが 風に吹かれて

 あれが着たいとかこれを被ってみたいとかこれを履いてみたいとかというのは、もうほとんど高校生の頃ぐらいで卒業したような感があるけれど。

 学生じゃなくなって久しいのに、文房具屋さんはいまだに弱くて。目移りしてしまう。
 これはたぶん叔父がデザイナーをしていたせいかもしれないと思いつつ。
 職場に遊びにゆくと、そのテーブルの上にあるものが、気になって仕方なかった。
 祖母に、遊び場じゃないんだから、あれこれ触っちゃだめですよって言われてたけれど。
 おもしろい形のオレンジ色の雲形定規や、色とりどりの鉛筆削り。切り張りするための、緑色のピンセット。
 芯が、7色になってる色鉛筆や、駒みたいに芯のところに太い糸がぐるぐるになっている、赤鉛筆。
 そして、砂が混じったようなざらざらしている灰色の消しゴム。
 
 こういう小さいころの記憶のせいか、文房具店に入るとそわそわしてくる。
 片岡義男さんのエッセイの中に、<紙に文字や図形を描くこと、それは人間の始まりからついてまわる、業のようなものだ>って書いてあって、ほんとうにそういう遺伝子のもとに生まれ落ちたわたしたち人間はもともと筆記用具が好きな生き物なのかもしれない。

 この間、母にモレスキンのプレーンノートブックを2冊もらった。グリーン系の蛍光色。じぶんの買ったノートは、まっしろのページのままっていうことはないのに。誰かにもらったものはそのままとっておく形になってしまって。これってどういうことなんだろうって思いつつ。
 そこに書きたいものがみつかったときは、ページを開きたくなるのかもしれない。書きたいものとの出会いを、彼らは待っているのだ。いつそういうことばやなにかに出会えるのか、まだわからないけれど。
まっさらなままでおいておきたいような、びっしりと文字を埋めてしまいたいような。

       
TOP