その四九九

 

 






 







 



















































































 

長距離の ランナーひとり きそいあう夜

 なにも書くことがないような気がして、ぽつんとしてしまう。
 ひとや場所のことおいしかったもののこといろいろあったはずなのに、なにも浮かばない。
 小学生の時。遠足の後の国語の時間に、原稿用紙が配られた時に、してやられたって思うときと同じで、いままさにそんな感じになっている。

 そういう話をむかし知人の方と話していたら彼は、遠足の時は次の国語の授業で作文を書かされることは定番化されてたから、作文用に行動してましたよ。
 そう言った。
唖然としたけど、彼のすばしっこいふるまいからは、たぶんそういう子供だったんだろうなとなんとなく想像がつく。

 この間、ずいぶん若い人たちと話す機会を得て、いろいろなひとたちの話を聞いていた。
 ちゃんとまっすぐ野心を持っていて、すごくまっとうに、燃えていた。
 そこにいた1番の人に思いをオブラートに包みながらも、ぐしゃっとあらわな気持ちをぶつけていた。
 これが若いということなのかと思いつつ、たぶん気圧されたんだろう。
 たいていのことには気圧されてしまう質なので、ほんとうにしょうがないと思いつつ。
 
 みんなきそってた。
 きそっていますよとせんげんしていた。
 それをわたしはなんどもなんども聞きながら、あめが夜からふりはじめたそこをあとにした。
 傘を差す。晴雨兼用じゃないウグイス色の日傘だったことに気づいて、ほかのだれかには差し出せなくて。

 傘の隙間からぽつぽつとにじんでくる、雨粒をからだとこころでうけとめながら、傘を持たない人たちが走り抜ける背中を見送った。

 雨をよけてはしりながらも、かれらは駅までの道のりまでも、競っているみたいに駆け抜けて行った。

       
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