その五一一

 

 






 





 




























































































 

あの夜の ブルームーンが 記憶を照らす

 ひとつのボールを奪い合っている大好きなイギリスの サッカーチームのプレーをみていたら。
一瞬、ブルームーンが映し出された。
その青さが、澄んでいる青で。目を奪われる。
青は惹かれたあと、なにかこころのなかに作用をもた らすのか、みるまえとみたあとではちがった空気を、こ しらえてすっと散ってゆく。

 福岡伸一さんのエッセイに時々登場するフェルメール のエピソードのなかにも青はよく登場していて、文章を みつけるたびに、思わず切り抜いてしまう。
<フェルメール・ブルー>はラピスラズリを砕いて作っ た色、ウルトラマリンだと教えてくれる。
 
 海の青も空の青も、ことしはどれくらいみたのかなっ て記憶をたどる。冬の寒い日に車窓からみた富士をつつ むような空の青はとても印象的だった。
 その青が走り抜けてゆくなか、だれかが着ていたVネッ
クの覚めるような青いサマーセーターを思い出す。
 おなじ青には、あれから出会っていない。
 でも空の青をみるたびに、青いセーターがもれなくつ いてきて。
 じぶんにとっての青がひとつになってしまう。

『ボーイソプラノ/ただひとつの歌声』という映画を観 ていて、エンディングで、かかっていた曲がとてもよかっ
た。
<君はぼくに教えてくれた。高く飛ぶように深く沈めと>
 そんな歌詞に目がとまる。
 ひとりの男の子が空に向かった視線をふいに海に投げ かけてダイビングする、うつくしいからだの曲線が目に 浮かぶ。
 まざまざとあおい。あおすぎるせつなのものがたりが、
だれにでもひとつはあるようなきにさせられて。
 そらもうみもひとも。出会ってしまうと、もうであっ たことがなかったことにはならないことになる瞬間が、 あることに気づかされて。 
 

       
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