その五三四

 

 






 






 

































































































 

ぬれている くろい鼻って コトバだったね

 どこかの犬がだれかと散歩している。
 とつぜん、よかったねって思いがこみ上げてくる。
 いっしょにさんぽ。
 それってもう、距離が断然ちかいということで。
 いつ頃からか、犬と人の散歩をみかけるのが好きになった。
 ちかごろたぶん、大好きだった犬と別れたばかりの方の文章を目にしていたせいかもしれない。
 ふしぎなもので、わたしはその方の犬にあったことは、ないのに。サイバー空間でみかけているうちに、いつのまにかじぶんのなかにも犬のBちゃんが、記憶されてしまっていたのだ。

 すきなひとの文章はいつかじぶんのなかに棲みつくものだと知って。うぉんとないてみたくなる。

 この間、高架下のすこしだけ暗い通りにたって、車を待っていたとき。
 通りのむこうから毛むくじゃらのアフロ犬が女の人と散歩しているところだった。
 まっすぐ道をすすんでくる。ちょうどわたしのすぐそばを通りかかった時のこと。その犬と目があったつかのま、去ってゆき際に、彼?彼女?がぐぐっとジーンズの足のあたりに鼻をおしつけてきた。気づくとジーンズはすこしだけ濡れていた。
顔の重さいっぱいを使ってぐいぐいと鼻をおしつけてくるのがわかった。
 え? っておもっているうちに、犬は通り過ぎてゆくのだけれど。いまのなに? ってそのお尻を見送りながらきゅんとした。
不意打ちをくらってすぐにそれは闇の中に消えていった。
 はじめて会ったのに、すこし気に入ってくれたみたいで気分がよかった。こうしてひとって名も知らない犬のことが、記憶のなかに刻まれてゆくんだなって思うと、人と犬のその距離感ってわる
くないなって思う。つかのまのなつのよのゆめ、でした。

       
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