その五五一

 

 







 






 









 

ひとしきり ボールをぬって あおい抱擁

ころがるボールをおいかけて、うばって、またとりもど
してシュートする。たったひとつのボールがだれかの意
思がはたらいているみたいに動くことがあって、それを
みているだけで、どきどきする。

薄青いブルーのユニフォーム。観客席で待ち構えている
ブルーと白の温かそうなマフラーをしているたぶん地元
のひとたち。彼らの顔はチームカラーのフェイスペイン
トがほどこされている。老若男女の姿をカメラがパンし
てゆく。こんなふうにどこかのだれかだれかを、応援す
るなんてないと思ってた。
ファーストハーフの45分+アディショナルタイムまで、
勝っていたにせよスコアレスドローだったとしても気が
気でない。

去年ぐらいからヨーロッパのサッカーを真剣にみるよう
になって、サッカーのある日はちょっとうれしい。
うれしいっていうより、待ってるって感じが、ちかい。
すきなひとを待つのは、こころがエアホッケーのように
あちこちにぶつかりすぎてつかれるものだけれど。
プレミアリーグのサッカーをみるまえは、単純に待って
いるまでにタスク的なことをこなすための時間だと思え
て、つまりご褒美がもらえる時の犬みたいに作業がはか
どったりする。

むかし関西に住んでいた時、ほとんどまわりの人間が、
というかタクシーの運転手さんとか居酒屋さんの大将さ
んとか知らないひとまでもすべてが、阪神ファンである
ような環境にいたので。みんながあんなに阪神好きなこ
とが、関西に住みながらもなかば信じられない感じがし
ていて。たぶんわたしはああいうなにかどこかのチーム
に心底惚れるみたいには、陥らないだろうなと高を括っ
ていたのに。それはそれはとても甘い見通しだった。
応援するって、なんだろうと思いつつ。
声? 全身で声になるって感じかもしれないとうろうろ
考えながら。
チームの誰かとかじゃなくて、チームまるごと監督のペッ
プさんふくめてみんな好きってのが、チームを愛するっ
てことなのかなって。
そういうチームをみんなでこしらえてきた時間に思いを
馳せながら、ボールが遠く遠くへと、みえないゴールへ
ところがる軌跡を一瞬を思い描いていた。

 

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