その五六〇

 

 






 







 














 

ゆびさきの グーグルアース 目覚めたままで

この間、照明器具をとりかえた。
いちおう取説を、よむほどじゃないと思っても
そこらへんにある字を、目で追うのがすきなので読む。

部品の説明から、ざっくりとしたコードのまとめ方、
電球のセットの仕方などがかいてあって、とりたてて
どうってことなかったのだけれど。
薄い取説のどのページにも、囲んである注意書きが
あって、そこには
<必ず2人でとりつけてください>って記されている。

重たくて落としたりしたらとかそういう類のことと、
多分なにごとかあったときの訴訟系の、なんやかやだと
は思うけど。そういう面白みのないことではなくて、
なんとなくその短い言葉に反応してしまった。

どこのページを開いても
<必ず2人でとりつけてください>ってなかなか笑える。
その日わたしはひとりでやりましたけど。
階下にいってこんなこと書いてあったって報告したあと、
ふたりでわらう。
わらったけれど、そのあとにいちまつのかなしみまでも
いかないけれどさびしさでもないけれど、ほんのりせつ
なくなって。
ほんのりせつないことは伏せながら、わらってた。

わたしが、まったくひとりで暮らしていて仕方なく自分
のために電球をとりつけなくてはならなくて、その作業
の途中で、その取説の一文を目にしたとき、かつて暮ら
していたひとを思い出したりするようなシチュエーショ
ンにおちいっていたら、たぶんちょっとやるせなかった
かもなって。
まったくどうでもいいことなんだけれど。
こういうありもないことのプロットを考えてる時、
わたしの頭にはだれかの顔が浮かんでくる。
そのひとは、バカだねといいつつ朗らかにわらって
いる。

その日わたしはずっと今年のお正月に録りためていて、
まだみていなかった
「LION/ライオン〜25年目のただいま〜」を見て、
じわっと家族って? ていう問いに立ち止まりつつ、
あの取説の一文を思い出していた。
ほんとうに取説って、大きなお世話だと思いつつ、
まんまと翻弄されているってどういうこと?
っていう一抹のQを抱きながらなかなか眠りにおち
てゆけない時間を過ごしていた。

 

 

 

 

 

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