その五七五

 

 






 






 














 

こんなにも 聞いて欲しいって 肌寒いから?

はじめのはじめ。一行目の言葉がみつかるまでってほんとうに
なんの仕掛けがあるんだろうっていうぐらい、思い煩う。
だから、何かを書き始める時ってじっとしていられないし、
落ち着きなく人の書いた文章を、狩りにいってしまう。

時折は出窓から聞こえる子供たちの声に触発されて。
一瞬ふわっと、なごみながらもおどろかされたりして。

今ほんとうに今。
男の子たちが、話ながら帰ってゆく。
ひとりの子が、「いつのじだいにいってみたい?」って、
おなじみの問いかけをした。
そういう声が聞こえてくるとわたしは、そこらへんにある
ペンでもって宅急便で受け取った商品の受注番号などが
書いてある用紙をくるっと裏向けて白紙の場所に書き留める。
その子の質問が終わらないうちに一人の子は話しだす。
「ぼく、ぼくはね、じぶんがまだうまれるまえ」
なんていうものだから、ちょっとざわっとこころがゆれる。
今がつらいのかな? って老婆心ながら気持ちがざらついたその
刹那。
「だからぁ、あのベビーカーとかにのってたころ?」
ってさっきの男の子の声が聞こえてきて。
え? って言葉の使い方をセオリー通りに使ってしまう日々に
慣れているじぶんの中になんか、無垢な矢が刺さった。
思わず、あなたうまれてるじゃないってつっこみながら。

こどもって。
たぶんじぶんの記憶から抜け落ちていることはもう、産まれてい
なかったことの引き出しに入ってるんだなって。
目から鱗ってほんとこういうことかもしれない。
彼ら子供たちは、それうまれてるじゃんとか誰もつっこまないし
みんなへぇ、ベビーカー? とかいいながら、彼の話に乗っている。
だれもつっこまないで、とにかく話に乗り続けていくってちょっと
甘美だなって。

アルテア賞の選考をさせて頂いてずいぶんと時間が経ったけれど。
やっぱりこどもだちの思いもよらない言葉には、とてつもない
みらいのかけらを感じる。
たぶんあしたになれば、昨日言ったことなんてけろっと忘れて
いるんだろうけど。
そうやって、ひたすらに秒の束を刻んでいってほしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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