その六〇六

 

 







 







 






















 

巻き戻し できない時間 巻き戻されて

映画って、観た後までずっと引きずってしまう。
そのシーンであり、台詞であり。
台詞って書いたけれど、その映画は台詞っていうより
その主人公の言葉そのもので。
主人公ってタイピングしながらも、あれは主人公っていう
第三者的なものではなくて、とても知っている人の
物語のようだった。

ずっと気になっていたけれど。
なんとなく機会がなくて、観ずにいた映画、
三宅唱監督の「playback」。

40歳前の、今まではなにかにうまくいっていたかもしれず
それなりのチャンスに恵まれていたらしい主人公が、
身体の不調に加えて、仕事のつまづきを覚えていた
ある日、ボンっていうむかしの同級生が訪ねてくるって
ところから始まるのだけれど。

それは、友人の結婚式に出るために誘いに来ていて、
それを忘れていた主人公のハジは、彼の車の中で
うとうとしていたら、
(いますごっくショートカットするけれど)
目覚めると、20年以上前の高校生になっていて。

過去に戻っている彼らは歳はそのままなのに、
ちゃんと制服を着て、やんちゃに楽し気に描かれていた。
いわゆる演技していないようにみえて。
彼らは歳を重ねていることを除いたら、いま、まさに
高校生だよねって思えて。

ありえない設定だけれど。
ふだん記憶を辿る時って、こういう感じだって思う。
リアルの身体形ではなくて、心ん中はまだぜんぜん
いわゆるあの頃のままだったりするし。

すべてモノクロームで描かれていて、とにかく
美しい映像なのだけれど、あれはノスタルジーとか
ではなくて。

妙に、不思議に、なにゆえなのかわからないけれど
とにかくリアルだった。

リアルという言葉で逃げたくなるほど、どうよかった
のかを説明できない。

タイトルの「playback」にはいろいろな思いが込められて
いるのだろうけれど。
見終わって何日か経つのに、じぶんの中でそれこそ
プレイバックしようとすると、うまくできなくて。

誰かにあれよかったってまだ喋っていない。
じぶんの中にしまっておきたい。ただそういう
思いと、映像の断片とともに頭のすみに棲んでいる
そんな感じがしている。

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