その六一五

 

 






 







 
















 

ほらみんな どこか違うって こころほころぶ

いつもこのシーズンになるとみているケーブルテレビ
チャンネルでエミー賞の授賞式を見ていた。

この特別な季節。
どんな方法で開催されるのかなって思っていたら。
はじめは、ちゃんと客席にきらびやかなハリウッド
スターが座っていて。

みんな、かなり隣が近いね状態で座っている。
でもよく見ていたら、いつか見た衣装と会話を
思い出してこれは、仕掛けがあるなって思ったら。

前回のエミー賞の風景だった。

受賞者は、各家庭からオンラインでつながっていて。
家で待機しているせいか、みんなラフな姿。
ひとりのひとも家族の人も夫婦のひとも分割された
画面に映し出されている。

終盤近くで、すてきな男の人が登場された。
理事会賞を受賞された、タイラー・ペリーさんだった。
俳優、作家、プロデューサー、監督と多岐にわたって
活躍されていて、テレビ界の功績だけじゃなく慈善的
活動を通して地域社会への機会を提供した取り組みも
評価され、授与されていた。

彼の受賞スピーチを、どこか笑いも交えながら話して
いらっしゃるので、わたしは油断して聞いていた。

お祖母様は、アフリカ系アメリカ人で元奴隷で。
ある日テイラーさんがそのお祖母様に一枚のキルトを
プレゼントされる。
でもまだ若かった彼はその贈り物をあまり気に入ら
なかったらしく、車のオイルを入れる時に
膝あて代わりにしたりぞんざいに扱っていた
という。

そして彼がある日。
ある骨董屋さんに行ったら、そのキルトのデザインと
そっくりのものが、ガラスケースにしまわれていて、
びっくりする。

なぜならとても高価な値がついていたから。
店主によく聞いてみると、そのキルトは人生の節目に
作るキルトらしく。
奴隷として暮らしていた生活から解放される時に着て
いた服の端切れや結婚式のドレスの一部がパッチワーク
されていた。

そしてその黒人として生まれたのにその歴史を知らな
かったことを恥じたとスピーチしながら、彼はその話を
不穏な空気に包まれている世界の分断になぞらえる。

パッチワークキルトという、それぞれ個性の違う布を
縫い合わせたものとは、いままさにみんなが直面して
いる多様性の現実の姿ではないかと、静かに言葉を
畳みかける彼の声が耳に触れるたびになぜか涙していた。

そういうことだ。そういうことなんだと。琴線に触れる
というその意味を、かみしめようとしていた。

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