その六二四

 

 





 








 






 

たぐりよせ 記憶をめくる いにしえの紙の音

昔の日記が出てきて、ページをすぐにめくるのは
こわかった。

同じ自分だけれどどこか自分じゃないような。

文字だけが横書きで縦にならんでいる。

ひとつめが、ひまわりのサントラって書いてある。
映画の「ひまわり」。
これはよく母が観ていたその影響なのかもしれない。

あの物悲しさに取り囲まれていたいと思う日々が
すこし蘇ってきて、ぼんやりと記憶の輪郭が
たちあがってくる。

ふたつめは宮本輝の小説の中の男たち。
そう記されていた。

一時期宮本輝さんの小説ばかりに夢中になっていた
ことがあった。

みっつめが破滅の行方。
よく思い出せない。小説の事なのか、映画のシーンの
ことなのかさっぱりだった。

抗う自分。
乱反射。
真実のない空間。
洋館のフローリングにひびくヒールの音。
自分を見失っている人達
音の鳴り初め。

こんなふうに羅列してある単語をみてもあのことだと
わかるものはなかったけれど。

なにかをペンの先に託して答えのない日々を
ぐるぐると回っていたんだなってことだけは
感じられた。

昔の日記はむかしの自分に会うようでいて
あたらしい自分の扉をいま開いたような
そんな気分をもたらしてくれていた。





TOP