その六三三

 

 

31


 






 









 

心の傷に 静か静かに 舞い降りてゆく

どこを眺めていても言葉がそこかしこに
あるので、すこし離れたい気持ちになって。

今は、SNSのせいか会ったことのない人の
言葉に傷つくこともあれば、会ったことも
ないのに、そこに言葉があることが、
ありがたく感じられることもある、

「31文字の世界」という小冊子を観ていた。

好きだった歌人の笹井宏之さんの短歌を目で
追っていた。

笹井さんの歌って、前から知っていたのに
いまはじめて知ったかのように新しい顔を
みせてくれるときがある。

?「はなびら」と点字をなぞる ああ、これは桜の可能性が大きい

この短歌の魅力ってなんだろう。
指で触れたのは笹井さんかもしれないのに
その指の腹の感触が伝わってくるようで。

下の句の
これは桜の可能性が大きい というところ。

直に心にふれてくる感じがする。

あと、この歌も好きだった。

?拾ったら手紙のようで開いたらあなたのようで見れません

どういいかなんてどうでもよくなってしまう。
言葉にすれば言葉がやせてしまいそうで、こわい。

こんなふうに言葉にちょっと傷ついた日も
短歌に出会うと、心の中に風が吹き抜けるようで。

結局言の葉たちのおかげで、また気持ちを
新たにするのだけれど。

つまりこういうことなのかな。

?たましいのやどらなかったことばにもきちんとおとむらいをだしてやる

言葉をほんとうに愛して、言葉からも愛された
笹井宏之さん。

この世を去られて時間が経ってもこんなわたしの
そばにまで来て、心の傷ついた場所を撫でて
もらった気がする。





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