その六三七

 

 





 






 









 

夏色が 鮮やかに降る かわいい庭に

ある本のことについて好きなライターの
方が書いていた。

記憶について。

少年アヤさんの著書『ぼくの宝はこ』の
書評だった。

彼が少年アヤさんを好きな理由は、
記憶を大切にしていることだけじゃなく
<記憶を育てているから>だと仰る。

<時にしんどい日々を静かに更新するため、
自分と懸命に寄り添う>

ただしい<男の子>として生きづらくて
かわいいもの、うつくしいものと一緒に
いることをこよなく愛するひとのエッセイ
だった。

<ぼくの好きなものはぼくのアイデンティティ
そのもの>

という引用箇所に胸を打たれるような想いが
あった。

自分が好きな世界を他人の視線に邪魔されない。

こういうことが守られるって大切なことだって
想いながら、その書評のことばを目で追っていた。

そして記憶には<ものと感情が混ざり合う>
と、結ばれていた。
すきなものを好きと言えるやさしさと表現
されていて、それはたくましいいものだと。

やさしいの顔はやさしいだけじゃない
その顔の裏にはちゃんとつよさが張り付いて
いるもので。

やさしいつよさってあるんだなって改めて
気づかされていた。





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