その六四五

 

 





 






 






 

この街にいる ひとりでいる ひとりのひとが

わたしの住む町には誕生してから
55年以上経つデパートがある。
屋上植物園のようになったその屋上には、
わたしがこの街に引っ越して来た頃には
半円型の舞台があって、その前にはベンチが
いくつか置かれていた。
それは3列並んでいて、背もたれのペコちゃん
マークは錆びていて、すごく末枯れた風情を
醸し出していた。
さびれてるってかなり好きなので、この街
いいなって思った。

大人になってからはなぜかデパ地下が
好きになった。

雑踏はきらいだというのに。
そのデパートには親しい方が幾人かいる。
みんな働く先輩で、まなぶところがたくさん
ある。
夕刻になると、仕事帰りの彼女たちとお惣菜やさんで
よく会う。

この間久しぶり宅配じゃなくてデパートで買い物をした。
もうなんねん振りかでそのデパートのYさんに総菜屋さんで
鉢合わせした。
昔から知っている人みたいに挨拶してくれて、一瞬にして
時間が縮まったようなそんな気がした。
妙だけど親戚よりも親しい気持ちになることがある。
都内に出かけていてわたしの暮すF街につくととても
安心する。
やっと緊張がほどける感じ。
そしてそのままデパ地下へと足を進める。

ある日、バスでもよく会うゆりちゃんと言う女の子が
デパ地下を歩いていた。
ゆりちゃんは、すこし知的障害を持っている。
いつかゆりちゃん、じぶんで自己紹介をバスの降り際に
わたしにしてくれたことがあって名前を知った。

それからバスで会う度にこんにちはとさよならをいつも同時に
してくれる。
そのゆりちゃんがデパ地下を歩いていた。

あ、ゆりちゃんだって思ったその時デパ地下のつくだ煮やさん
とかお豆腐屋さんの店員さんが、ゆりちゃんお帰りって
みな口々に声をかけた。

ずっと姿を見せなかったらしく、(コロナ前のことだったけど)
どうしてたの?心配してたんだよ元気そうでよかったよ
ゆりちゃんって話かけていた。

ゆりちゃんは意外とそっけなく、うん学校はおやすみだったんだ。
ずっとママとお家にいたからって、じゃあさようならって
あっけなくデパ地下の通りをするすると帰っていった。

ゆりちゃんの背中をみながらなんかいいなぁってこのデパ地下
好きだなって思った。
そのデパートは、古いだけあってなんだか大きな家族みたいな
感じがすることがある。

大家族に憧れたこともないけど。
そのデパートだけはわたしがほっとする
場所で。きっとそこに集ってるひとたちの温かさを
感じられる場所だからかもしれない。

 



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