その六八八

 

 






 






 




 

こっちまで 風が届いて  旅を読む夜

我が家のちいさな中庭には昔の井戸の
名残のコンクリートの上に、スナフキンが
15年も前から座っている。

しばらく緑色の帽子を被っている椅子に
腰かけている姿をみていた。

吟遊詩人で、とても自由を愛するのにどこ
にもいかないで、私と母の住んでいる我が
家の庭にいるんだと思ったら、ここでいいん
ですか? って申し訳ないような気持になっ
てくる。

ひょうひょうとした風情。

それは時々目にするたびに、色々あるだろう
けど気にすんなってぽそっと言ってくれてる
みたいでほっとする。

彼が生まれた場所を知りたくてわたしは
いくつかあるムーミン特集の雑誌を開い
ていた。

フィンランド生まれのこの童話は、
フィンランドの島に住む人々の思いが
あちらこちらに散りばめられている。

テレビで見ていた時も、あのそこはか
とない寂しさってなんだったんだろう
と思っていたらその答えらしきものに、
辿り着いた。

<宿命的に漆黒の冬をもち、はかない
夏はなにより自然とふたりきりに
なりたいと願う人々>が
暮らしているゆえ、
<他人の自由も頑固に守ろうとする>。

雑誌『クウネル』2007年1月1日号
「ムーミンのひみつ」。で出会った言葉。

そういう背景がちゃんと物語のなかに
込められていたことを知った。

<ここは、かくれ場所であって、しかも
あけっぴろげでした。自分を見守ること
ができるのは、鳥だけなんです。>
(ムーミンパパ海へ行くより)

この潔いまでの風とおしのよさに惹かれ
てゆく。

この童話の中、9話のうち8話は方位図
のついた地図からお話が始まるという
文章に出会う。

この写真をみているだけで、童話を読む
ということ、とりわけムーミンを読むと
いうことは共に旅するという想いのはじ
まりがここに込められているみたいで憧
れる。

風がどっちから吹いてくるかを知る
ことも、日々の暮らしの中でムーミン
谷のひとたちにとってはとても大切
なのだ。

こうやってシミュレーションしている
だけでわたしは、フィンランドの島々に
想いを馳せたくなるそんな年の始まり。

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