その四






 





 







 

こぼれおちそうな階段やゆっくりとしか人々を
運んでくれないエレヴェータ−つきの
とても古いビルの一角にあるギャラリ−で
2枚の絵を見ていた。
そこに登場するのはどちらも月と人と山とらくだだけだった。
もしかしたらわたしの記憶違いで、
らくだの上には人は乗っていなかったかもしれない。
とにかく、らくだと月と山。この三つはどちらにも存在していた。
ただそれだけの絵をずっと見ていた。

青白い月明かりの下をゆくキャラバンの隊列。
ひたすらに夜のしじまを越えてゆく。
ただひそやかでしずかに時だけが過ぎてゆくような。
彼らはわたしたち鑑賞者のむかって右にすすんでいく
らくだ達だった。
そしてもうひとつの絵もおなじように彼らは
さらに青白い夜のまんなかあたりを黙って歩む。
でも彼らは反対にわたしたち鑑賞者のむかって左にすすんでいく
らくだ達だった。

その右ヘ右へとすすむ彼らの姿はどこかに『行く』光景に
見えて仕方が無かった
そして左へ左へと足を運ぶ彼らの姿を大切ななにかを終えて
『帰る』姿と感じてしまった。
ただそれだけだったのに今もわたしのこころのどこかに
その2枚の絵の構図が浮かんで消えない。
はじめから右へと進むらくだに目が離せなかったのは
そこに未来を思ったせいかもしれない。
でもその2枚の絵はもしかしたら未来でも過去でも現在でも
ないどこにも存在しない次空間を描いたものかもしれないと
思ったらどきどきしてきて、そしてなぜだかそう思っただけなのに
とてものどが渇いてるじぶんに気がついた。

       
TOP