その十五






















 

なまえもないおんなのこがひとりで立っている。
ちょっとぶ然としてみたり、すねてみたり、ひるんでみせたり。
ふてくされてるのはいつものことだから気にスンナって
いわれてるみたいに。
そして飛び込み台みたいな上に微妙なバランスで、かかとをつけていいのか
浮かしていればいいのかわからない、あやういポーズと
あやしげな顔のバランスでそこにいる。

しずかにきれいなよだれを流す犬もいた。
あごをつたう水がどこかとおくへと流されているその音は
どんな音楽よりもさびしくて。
こどもの顔からしたたる涙も手のひらですくえるほどに
つらつらと流れる。
すべての記憶をなくした少年がその母親の頬から流れるなみだをみつけ
どうしてこんなにこの人は瞳の奥からみずがあふれてくるんだろうと
こころのわからない場所がしめつけられる思いがしたとゆっくりと
しゃべっていたその声をふと思い出していた。

ちゃんとひとりをしっているおんなのこは
おじさんのこころもおばさんもちっちゃなおとこのこのこころも
ぜんぶたずさえてそのちいさいのかでかいのかわからないからだを
じぶんひとりっきりで支えて立っている。
こどくで悪いか?ってタンカきりそうな勢いですごんでいる。

つめたいフロアにいたギャラリーがだれひとりもみえなくなって
電気がぱちんと消されてのこるのはいっぱいのひとりのおんなのこ。
そして漂い続ける水の音、それだけ。
想像してみる。
がらんと冷えきったそこにいるおんなのこたちは、
ポーズを変えて、もう誰にも見られない安心感で
こころゆくまでゆっくりと気兼ねなく
じゃーじゃーになみだを流しているのかも知れない。

なあんてセンチメントな気持を途端に運んでくるのが
彼の作品で、そんなこころに思いっきりパンチを受けて
たちまちあたしはやられてしまう。
もうあたしのこころはぼこぼこにされていて
あたしは彼の生み出すそのおんなのこや犬になら
ぱんちどらんかーにされてもいいぐらいしっかり
弱味を握られているのだ。

孤独の奥行きも幅も高さもぜんぶまるごとわかったきになっていると
あの憎たらしいけど愛らしい目つきの彼女が
ふりむきざまにキャンディーなめたあとのいろつきのべろだして、
してやったりの顔していそうで
深よみすればするほど、どんどん好きになっている。
そんなじぶんにこのあいだの水曜日、とつぜん出会ってしまった。

       
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