その二十







 







 







 

ちいさく切り取られた窓からみるささやかな風景。
流れるように過ぎ去る時間をみせながら、ひとびとを揺らしてゆく。
街から街へと移動する足は、なぜかわけもなくバスを、選んでしまう。

バスストップと書かれたすぐ下で待っていると
いつのまにやらバスが止まり。
わたしたちを目的地まですみやかに運んでくれる。
いつも適量の速度を保ちながら、なるべく安全運転をこころがけながら。

時間や道順を違えないって、えらいと思う。
でもときどき夢想する。
いま、すべてを忘れてアクセルを全開にして
停留所なんかをすっとばして、暴走してみたいとか
運転手さんは思わないんだろうか?とか。
ちょっとこのカーブを曲がると潮の匂いがたまらないから
海をみたいなぁ、ちょっと寄り道!とか。
そんなどこかの映画のようなことはあってはならないけれど
そんなことを想像しながらバスに乗っている時間は
とてつもなく楽しい。

わたしがすきな歌には、おとこのひととおんなのひとが 
すてきにふしぎなバスで旅にでるふたりが描かれている。 
どんな名前で呼べばいいのかもわからないそんな夜明けが
明けたころにふたりは、バスの旅にでる。
きっと誰の目も盗めるような気がするちいさな席で、 
ちぢこまるようにふたりは座る。
座るというよりもまるまったからだをひらがなにする感じで。 
空の色が妖しくなるまで。バスのなかだけで時間が過ぎてゆく。

この曲がはじまると、わたしはいつもじぶんのなかだけの 
バスがデジャ・ヴュのようにあたまのなかにひろがるのを 
感じる。とくに日暮れたあたりの青白い照明のその中を思って 
いつもいつも曲が終わるそのおしまいまで、わたしは、 
ふしぎな街へと迷い込んだような気持になる。 
街を流すバスとちがう、オブラートに包まれたような 
あやうさにみちたそのバスは、17年経ったいまもずっと 
わたしをむきだしにおろおろさせる。

       
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