その二一






 







 







 

ときどき頭の中にうかんだ想いがどんな道具もつかわずに
誰かに届いたらどんなにいいだろうと思う。
これはちいさいころからずっと思い続けている事で
便せんや、まっしろい紙でも、電話でも、声でもなく
ぜんぶいまおもったほんとの気持がまっすぐに流星の落ちるスピードで
相手の胸やあちこちに欠片となって伝わってくれたら
いいのになぁとほんとにずぼらなことをときどき思う。

はじめてそんな思いにかられたのは
ちいさいころ、生まれてはじめて夜間飛行したときのことだ。
冬のちょうどこんな季節、星がみごとな夜だった。
いつもなら就寝時間のはずのわたしと弟は、すこしひかえめに
よそゆきの服を着せられて、母と三人で出かけた。
ずっと飛行機の窓を眺めていた母は夜空ばかりをみていた。
そして、ぽつりと言ったのだ。
『おじいちゃまは、お星さまになったんだよ』と。
童話の中のお話の一節のように、とてもすずやかにそう言った、
母の黒い服からはすこしだけ香水の匂いがしていた。

ひとが死ぬと星になる。ずっと忘れていたおとぎ話のようなフレーズ。
そんなことを思い出したのは、降るように落ちてきた流星群の
あの真夜中過ぎのイベントのせいだ
わたしはからだが夜の風に冷やされていくのも忘れて
空でたのしむもぐらたたきゲームのように目の前に立ち表れては
消えてゆくそれを、ゆびおり数えていた。
そして星をみながら、いまわたしの頭によぎるぜんぶの思いが
なんの曇りもなくたいせつな人に矢のように届けば
どんなにいいだろうと思った。
あの頃、この地上からいなくなってしまった祖父を手繰り寄せたくて
仕方なかったときと同じように。

沈むように目の前をよぎる星を仰ぎながら大切な人たちは
きっとちゃんと元気で生きているはずなのに、
わたしは遠くにいるそんなひとたちの顔を思い浮かべてばかりいた。
そして母があの日つけていた香水の名前が『夜間飛行』だったことを
突然思い出して、わたしは時間も空間もずれたりぶれたりしながら
とてもたいせつなひとを愛おしく思うとても不思議な夜明け前を過ごしていた。

       
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