その二二







 






 






 

てのひらでころがるそれはとてもとても無愛想で
まったくもってかわいくないのだが。
そやつは春になると変身するのだ。
たいていのものが百八十度って角度の意味をいちはやく
納得してしまいそうなぐらい、みちがえるように美しくなる。
いろんなタイプのものがあって
ひげあり、つるつるあり、どっちが頭でおしりなのかわからなく
なってしまうのもあるけれど、ここはいい加減にさかさまで
どうぞよろしくとやってしまうと、たいへんなことになる。
そなた様の寿命はそこで事切れてしまうのだ。

・・・と、世にも長いなぞなぞの問いのように
もったいぶってしまいましたが。
はぐらかされるのはだいきらいなのでわたしも素直に
申し上げます。 それは土と共に生きる『球根』です。
この世に存在するてのひらに隠れるもののなかで
いちばん尊敬に値するのがあの『球根』なんです。
なんか栄養分もふくめてこれからのじぶんの姿を
あのかたまりのなかにすべてインプットしてあるなんて
なんて精密なんでしょう。
わたしは彼のことをちなみに『未来カプセル』と呼んでみたくなります。

暗い土の闇のなかでそしらぬ顔して眠っているようにみせかけて
彼がすごい仕掛けをその中で企んでいたことに気づかされるのは、
すべて春をむかえてから。
さぷらいずな出来事は大好きなので
土を掘って球根を植え、また土をかぶせてふたをしたことを
途端に忘れることができる術をいつか身につけたいと思っているのですが
このときばかりはすこし記憶がじゃまになってしまいます。
といいつつ彼はとても気の利く粋な側面もあるわけで。
そんなタイムカプセルな球根の、そのカプセルのすがたを
完全に見失った頃、思いがけなく咲き乱れる花に気づくのです。
突然の贈り物のように未来を孕んでいるちいさな球は、
すこしあたたかいきもちを運んできてくれるみたいで、
いつまでも眺めていたくて土のなかへしまうのが
おそくなってしまうのがいつものわたしのくせです。

       
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