その三十






 





 









 

彼方から 暗号みたいに 風にゆられて

ひとつの四角い箱がありまして。
どんどんどんどん揺れながら
たゆたう水を泳いでいます。

その水はなめてみると塩からく
いつまでものどがひりひりしてくる
そんなスパイス入りの色つきの水です。

てのひらにすくってみると透明なのに
遠くからみると不思議な色をしています。
魔法にかけられたみたいな気分は大好きなので
なんどもそれを試してみました。

他人の顔してそこを揺らぐ四角い箱に誘われ乗ってみると
しばらくしてわたしは胸がこみあげ
くるしくなることを憶えました。
するとどこからか声がすうと聞こえて来てわたしに言いました。

それは酔っているのだよと。

よっている・・・。
はじめて聞くことばはわたしのからだを駆け巡り
全身がそのことばで抱囲されてしまったのです。

なにもくちにしないのによっている。
これは液体か気体かそれさえもその正体さえも
わたしには見分けられないのですが。
ちょっとしたこころの状態だから心配はないと誰かがまたいいました。

なにもくちにしないのに想うだけなのによっている。
こらえきれないほど
四角い箱のなかでわたしはモンブランのケーキのように
よじれてみせたりしながら、ゆらめいています。

沸騰点はあるのでしょうか
ないのでしょうか。

       
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