その三三






 








 






 

白すぎる 雲のあわいに たばこのけむり

日差しの強さに負けてしまいそうな
はじめてあたらしい町に降り立ったとき
高い階段のてっぺんからはじめてみたものは
とてつもなく白くて広くて涼し気なものでした。

まっしろいそれはとてもゆたかな動きをしたので
わたしはそれがだれかの背中であると確信しました。

わたしは案の定、道に迷った。
さまようほどに余裕はなくてじりじりと焦っていたら
さっきのその背中の人がどこからかやってきて
わたしに地図を描いてくれると言いました。

そのひとはいままできていたその麻のスーツを脱いで
アスファルトにしろい背中の部分を広げてゆきます。
<どこに行きたいの?>
わたしは行き先を告げると
彼はとうめいのペンでそのスーツの背中に
すらすらとためらうことなく地図を書いてくれました。

はじめてスーツに記されてゆく地図をみていました。
たぶーな行為はわたしをありったけ驚かせます。
そんなつかのま
<ここに書いてある通りにいってごらん>と
その大きな背中の人しか着ることのできない
世界でひとつしかない地図を渡してくれました。

目的地がほんとうはどこだったのかなんて
もうどうでもよくなっていました。
わたしの腕のなかには折り畳まれた麻でできたしろい地図。
ぎゅっと誰もいない場所で抱き締めてみると
なにかが足りない気がしてきます。

そんなことが風のようによぎったのは
かなしいくらい青い空の下を泳ぐ
シャガールの恋人たちを見ていたせいです。
きっとそのせいだと思うのです。

       
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