その五十五





 







 







 

ベーグルの まんなかだけが あかるくだまる

セーターの毛糸よりももっと繊細で
うっかりしていたら風に飛ばされて
しまうぐらい細い糸のようなものを
たまにみつけることがある。

ふいにわたしの指にくっついてきて
それをよく観察していると、1本が
3つの色のグラデーションになって
いるのがよくわかった。

しろとくろとぐれーと。
本当の色の名前はよくわからない。
でもそれはわたしにとって、とても
馴染んだものが遺していったものと
気づいて、その不在に蹲りたくなる。

街の並木に電飾が取り付けられて、
眩しい彩りを見せ始めるこの季節に
そんな彼そのものが身につけていた、
体の一部とふと邂逅してしまう時。

わたしはとてももやもやしてしまい
それを捨てられずに困ってしまう。

猫の毛は純毛だ。100%、ウールだ。
寒い時はふとんのなかでそれと眠り、
暑い時もタオルケットの側で添い寝
しながら、彼の体温を可愛いけれど
暑苦しいよと、眠りこける彼に伝え
ながら暮らしていたことをゆっくり
すぎるぐらいに思いだしてわたしは
具合が少しだけ悪くなりそうになる。

いつもは気にならないことが、その
1本のふやふやしたもののおかげで
ぽっかりとした穴を感じてしまう。

そんな一瞬を過ごしていたらいつの
まにかわたしの指の上のいっぽんの
それはもうはじめからなくしていた
かのように、どこかに消えていて、
またわたしは、ひとりだけ夜の端に
置き去りにされた気分におそわれた。

たかが黒くてきれいな目をしていた
猫だったというだけなのにいったい、
ぜんたい、どういうことなのかと。
どれもこれもいちぶがぜんぶ、この
不思議に刹那の季節のせいなのだと
いう事にしたくなったそんな2002年
12月のとある日の日記でした。

       
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