その五十六






 




 








 

さみどりに 水平線の ベクトルで飛ぶ

彼との距離は多分ある。
血はつながっているのに
妙な緊張感が伴うのはきっと
家族の中でもわたしだけだろう。
でも、間にだれでもいい、ひとり入ってくれると、
スムーズに話ができる。
そういう関係性のままここまで来てしまった。
4つ下の彼の宇宙はわたしにはよくわからないのに
彼は私の部屋の本を見つけては
これ借りていい?と愉し気に抱えて帰ってゆく。

ぴっくあっぷしていたことも忘れてしまっていた
本がどっさり年末に戻ってきた。
まだよんでいない雑誌も含まれていたので
それがじぶんの本なのに、プレゼントされた心持ちで
わたしはいそいそとページをめくる。

コパカバーナやイパネマの海岸。
いくつかは夏の季節のものだったので
ちょっと不思議な気分になった。
冷たい指でめくる夏の海の写真は
ちょっとトリップさせてくれたのだ。

2003年のいちばんはじめの夕刻ごろに
彼が、シャンパンと共に現われた。
去年もそうやって置いていってくれた発泡酒が
封をきらずにあったので大晦日に冷蔵庫に
冷やしておいたもので、みんなで乾杯した。

なんとなくもったいなくて置いてあったのだ。
紫色に桃色をあわせたようなきれいな色の
しゅわしゅわとした泡がグラスのへりで踊っていた。

今年のお酒はまた来年開けようねと云いながら
それが正しいおいしい飲み方じゃないかもしれないと
思いつつ、はじめて今年のはじめに来年の話をして笑った。

今年持ってきてくれたシャンパンは
素敵な入れ物に入っていた。
パナマ帽みたいに編み上げられたワインバッグだった。
その風合いも色もぜんぶが夏の色だったので
わたしはずいぶん訪れていない近くの夏の海を想った。

真冬なのに暮らしの中にちょっと踵を返したような
夏がそこにあることがうれしくて
わたしはそのバッグだけを部屋に飾ってある。

こういうなんだか甘ったるい感情とは無関係な場所で
過酷な仕事に勤しんでいる彼と彼の家族の健康を祈りつつ。

わたしのだいすきな人たちが今年も
すこぶる健やかでありますように!

末筆になりましたが
2003年も気の向かれたましたときにでも「うたたね」に
お立ち寄りくださいましたら、幸いです。

       
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