その七三










 







 





















 

ぶらんこが 遠くの空へ 逝ってしまうから

まっくらい海の上に、まぶしく咲く花火。
一瞬をわたしたちの目に焼きつけて
消えてしまう光の花は、咲く事よりも
まるで消えてしまうことが仕事のように
つぎからつぎへと色とりどりに生まれ変わってゆく。

からだの底まで響きわたるようなあの
どーんという轟音は、とても太く短く余韻を
残してゆくので
瞬間さびしくなる。

太く短く生きた<男の人>を想像してしまうのだ。

そう思っていた時、隣から低い男のひとの声がしてきた。

残像がいいね。

残像もいいけど、その残像のいっぽ手前がいい。

男のひとといっしょに花火を見に来ていた
連れの女のひとの声だった。

いっぽ手前? 

男の人は、微妙でむずかしいよそれ、と云って笑っていた。

なんかうまく説明できないけれど
残像がいいと云ったのが男のひとで
残像のいっぽ手前がいいと云ったのが女のひとであることに
わたしは妙に納得していた。

あぁここに見知らぬひと組の男女が存在していることを
やたらに実感してしまったのだ。

時折、心地よい潮風が吹いてきて、
汗ばんだからだを涼しくしてくれる。

花火が打ち上げられる度に、あちこちに歓声が湧いて
ちいさなこどもの「たまや〜かぎや〜」という無垢な声が
まじってゆく。

花火の青や金色が、いさぎよく
消えてゆくのに、
まぶたの裏はさっきみたばかりの
花の色を追っていた。

凛とした花火がピリオドを打った夜の海。
朝になっても、ゆうべの記憶の中の花火は
わたしのなかでまだ、
リエゾンするように続いていた。

誰ともわかちあえないその映像は、
残像も残像のいっぽ手前もすべてを
うつしだしているようなちょっと幻想的な花を
みている気分だった。

       
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